不敗の民3
「エンヤは、女の子の間では、よく流行っていますよ」
レコード店でCDを買ったとき、店員はそう教えてくれました。
エンヤとは、本名をエニア・ニ・ブリーナイン(英語読み)というアイルランドの女性歌手です。
このCDは不思議なCDです。最初に入っているA Day Without Rainには、人間の声が入っていないのです。
「何日も何日も降り続いた雨。それがやっと降り止んだ。」
おそらくその喜びでいっぱい。人間の声で、どんな形であっても、具体的に示したくなかったのかもしれません。
そういえば、ゴールウエイからバスに乗って、コークに行ったときは雨でした。豪雨というのではなく、しとしとと降り続く雨です。
バスが早く着いたのであたりを散歩しました。川辺に来たときに驚きました。
川の水が真っ黒なのです。茶色の洪水には慣れているけれども、真っ黒な水には慣れていません。
「何で真っ黒なんだ」
と、そのとき、思いつきました。
「泥炭だ。そうだ、ここは、岩と、その上に積もった泥炭の国なのだ」
アラン島で買ったアイリッシュ・リュートのみやげ物を思い出しました。こげ茶色で黒光りがしているのです。
そのときたまたま日本人の一団がはいってきました。「これは何からできているのか。」リュートを取り上げて聞いています。
「ピートだ」
peetという単語を知らなかったのでしょう。「ピートって何ですか」
「peet!」店員は大きな声で繰り返しました。それしか言いようがなかったのでしょう。
さて、このCDの三番目にはOnly Timeという曲が入っています。
Who can say
Where the road goes
When the day flows
Only time.
「私がたどっているこの道が
どちらに行くのか
今日の日がどのようになるのか
わかっているのは、時間だけでしょう。」
というOnly Timeを最初に聞いたときには、アラン島で見たアイリッシュ・ダンスを思い出しました。
人に気づかれないように、上半身は全然動かさないで、下半身だけで踊る。いや首だけは右や左に動かします。それでいて、足の動き、とくに靴の響きは、まさに秘められたエネルギーといった感じで、思わず圧倒されました。たった男四人、女二人のチーム。今写真を取り出してみると、服装も黒と紺という地味なものでした。
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