不敗の民2
そういえば、司馬遼太郎は「愛蘭土紀行」のなかで、ニューズウイーク(日本版1987・12・17)の記事を紹介しています。(245ページ)
「アイルランドから若者がいなくなる日」というタイトル。「失業率二〇%-改善の見込みがない不況のなか、過去五年間に七万五千人以上の若者が海外に移住した」というサブタイトル。
さらに、
「いずれは、移住できる人間さえもいなくなるであろう。石の上の国土というだけでもロマンティックなのだが、石を食うわけにはいかない。
氷河が去ったあとの傷あととしての湖、それにドラムリン丘陵。さらには降り注ぐ日照り雨(そばえ)と森。それに冬もあおい牧草。神々が住むとしかおもえない美しい国土ながら、美しさを食うわけにもいかない。」
と、ダブリン大学の人口学を講義している教授の話も、あわせて紹介しているのです。(「愛蘭土紀行」P245)
「美しい。」確かにそうなのです。なだらかな傾斜、点在する石の垣根、そして海岸に出ると、見渡す限りの断崖絶壁。でも、「美しさだけでは食っていけない」という話は、あながちわからないことではありません。
そういえば、ダブリンからゴールウエイへの汽車の中で、真向かいに座った女性は、あの詩とは違って、日本でごく普通に見かける気さくな人でした。
「私は、毎年子供たちのところに行って、一ヶ月二ヶ月と滞在するのです」
なんでも、アメリカに一人、ブラジルに一人、そしてどこといったのか覚えていませんがもう一人海外にいる。だから毎年子供のところに行くのが楽しみだ、というのです。
「この国に子供がいるのか」と聞くので、「別に誰も居ない。しかし、ずっと前からアイルランドに来たかった。やっと時間ができたので、家内と二人で来た。」
その人はびっくりした顔をしました。「こんなに、何もないところを?」
司馬遼太郎が、愛蘭土紀行を書いたのは、一九八七年前後でしょう。私がアイルランドに行ったのは一九九九年のことですから、それから一〇年ほどたっています。
そして、九九年ではすでに、アイルランドには、住宅の建築ブームが起こっていました。それに、「交通渋滞がひどい」
「このような、広い自然のなかで、どうして」と聞くと、
「どの家族も子供が五人や六人はいる。そのみんなが車を所有している。だから毎朝ものすごい交通渋滞が起こる。」
そのあと数年して、世界的なIT革命が起こり、若者が力を発揮しだしたのはご存知の通りです。
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