「最高血圧が172と高いので、やはり下げたほうがよい」
四ヶ月に一回、札幌まで出かけて行って、間質性肺炎の専門医の診察を受けている。先生は、血圧を測るのに血圧計を使わない。手で脈を取って、それで血圧がいくらと診断する。まるで神業のようで、心から信頼している。
カルシューム拮抗剤を、三〇年以上飲み続けていた。それが心臓をブロックする副作用があるという記事があった。実際に、その薬の副作用かどうかはわからないが、私には房室ブロックという症状が起こっている。ブロック自体は心配ないといわれているが、これ以外にも副作用があることは間違いない。
そこで、近所の医院に相談したら、ディオバン(AT1ブロッカー)を処方してくれた。念のためパソコンで調べてみたら、なんと重大な副作用として間質性肺炎を起こすと書いてある。こんなものは、飲むわけにはいかない。
そこで、一昨年のことである。一年かけて降圧剤を飲むのを止めることにした。時には頭が充血する感じもあったが、なんとか一年かけて、昨年の六月には、飲まなくても160-90ぐらいになり、やっと降圧剤におさらばした。
しかし、昨年の一二月から家内が調子を崩して、買い物や炊事など大変なことになった。夜も十分に寝られない状況に加えて、料理の本をみて調理をしていると、せっかく減塩食になっていたのが、普通の塩分をとるようになってしまった。これも原因のひとつであったろう。
さらに運動もできなくなった。それまで週に二回は、一時間くらい社交ダンスを踊っていたが、それがだめになった。それに、週に一回は、大学まで、五つの交通機関を乗り継いで通っていた。二コマ、学生と一緒に討論する。いい気分転換で、終わったあとは、疲労もあったが気分がすっきりした。これも、七五歳が最終の定年になって、今年の二月からは大学で教えることもなくなった。
北海道から帰った翌朝のことである。血圧を測ってみると、なんと最高が204で最低が105もあった。さすがにこれは高いと思った。そこで手元にあったカルスロットの一錠を半分に割って飲むことにした。五月二六日まで六日間、そうやって薬をのんだ。その結果、160-90に落ち着いてきた。
もう一度、浜六郎の『血圧は薬で下げるな』を読み直してみた。「薬を飲まない」要点は、運動、減塩、そして、ストレスをかわす(ストレスはなくならない)ことである。
運動としては、気候もよくなってきたことだし、できるだけ歩く。それに二階の洋室で狭いけれども、できるだけダンスの練習をする。一人でもやむをえない。さらに、塩分を削減する。レシピの塩分量を半分以下にすればよい。これらは、何とかいけそうだ。それに、嬉しいことに家内も回復してきて、家事はもとどおりにできるようになった。
あとは、ストレスである。忙しかったことは確かである。しかし、あれもこれもきちんとやろうとして、気がついたら、以前、つまり、若いときにバリバリ仕事をしていた時のように、上半身を緊張させて、特にのどの奥を緊張させて動きまくっていたのである。
このことに気がついていなかった。歩くペースも速い。ジャガイモの皮をむくのも速い。本を読むペースも速い。何もかも速くなってしまっている。七〇代の人間らしく、ゆったりしなければいけないのだ。
時には、ボーっとして、自分の体の声を聞きながら、自然な気持ちで行動することである。これには、ハワイアンの音楽を聴くのがよいことがわかった。そういえば、ワイキキのビーチで、夕方に撮って、四つ切りに伸ばした写真があった。
そうだ。それを書斎に飾って、気候もよくなったことだし、ハワイにいると思えばよい。そう思ったら、気分が大分楽になった。
今から新しい内科医を探す。これだけでも大変だ。探し出せたとして、これまでの経緯を話して、事情を理解してもらう。たとえ、そこまでうまくいっても、薬で高血圧症がなおることはない。死ぬまで薬を飲むことになる。そのあげく副作用に苦しむなら、いっそ飲まないで済むよう、自分で対処するしかない。
ストレスをかわすというのは、生活態度を変えること。つまり、すべてを受け止めるという姿勢をやめる。
そして、体からできるだけ緊張をぬくということである。これは楽しい修業ではないか。やろうではないか。と、五月晴れの日に、気持ちを新たにしたのです。